行き詰まったら、こう言おう、「あるよ」。
(「HERO」)
親愛なる君に

「HERO」の、いつも木村拓哉さんが行くバーのマスターがいい。
ここのモニターで、木村拓哉さんは、
いつもテレビショッピングの新製品を見ている。
マスターは、いつも黙々と仕事をしている。
その上腕二頭筋は、鍛えているストイックさを、物語っている。
「まさか、こんなものは、できないでしょ」
どんな変なものを注文しても、
マスターはいつも、ぶっきらぼうに、こう言う。
「……あるよ」
このバーのマスターは、
主人公・木村拓哉さんの導師なのだ。
すぐれた英雄物語は、導師をはっきりと出さない。
「HERO」には、二人の導師が出てくる。
一人は、児玉清さん。
もう一人が、このバーのマスターなのだ。
児玉清さんが、いつも画面の真ん中にいるのに対し、
マスターは、いつも画面の端にいる。
時には、腕しか写っていないこともある。
マスターは、このセリフひと言しか言わない。
でも、このドラマのテーマが、このひと言なのだ。
「あるよ」だ。
万事休すに追い詰められたときでも、
それでも何か作戦は「あるよ」ということなのだ。

                        中谷彰宏拝
P.S.
なんでも、言ってみてごらん。
こう答えるから。
「あ……」