子供は子供らしく、なんて気にしなくていい。
(石川九楊先生)
親愛なる君に

子供の頃、大人が書く略字や崩し字にあこがれた。
書道家の石川九楊先生が、
<子供の世界を子供らしく書き出す子よりも、
大人びた、ませた字を書く子の方が、良いと思う>
と『書と文字は面白い』の中でおっしゃっていた。
僕は、これを読んで、拍手喝采した。
長年の便秘が、一気に出た気がした。
これこそ、僕自身が、子供の頃から、悩んできたことだった。
「上手だけど、大人びていて、子供らしくない」というのが、
僕自身の芸術の壁だった。
テストで、正解なのに、略字だからと、ペケになったこともある。
それでも、略字を書き続けた。
学生運動家の書く立て看板の略字も好きだった。
学生運動は嫌いだけど、看板は書かせてほしかった。
映画の字幕の独特な略字も覚えた。
映画も好きだったけど、字幕の文字も好きだった。
暗号が、好きだったのかもしれない。
子供は子供らしくというのは、大人の文化のある社会ではない。

                        中谷彰宏拝
P.S.
いつか子供にも、大人っぽいことをさせよう。