一流と笑いは、両立する。
(ナタリー・ショケットさん)
親愛なる君に

コシノジュンコさんに誘われてサントリーホールで、
「ナタリー・ショケット/ディーバの微笑」を
聴いてきました。
「聴いた」というより「観た」という感じです。
「ディーバの微笑み」ではなく、「ディーバの爆笑」でした。
オペラやミュージカルの名曲をコミカルに味つけして、
というよりは、コントでつないでいくのです。
日本の大工のはっぴを着て出てきて、
オーケストラがまじめに演奏しているのに、
そばでコンコンと、くぎを打つのは、まるでドリフのコントです。
ノリのいい歌手の寸劇をはるかに超えて、
練り上げられ完成されたコメディになっています。
もっとも大事なことは、
それでいて、オペラの歌唱力が一流であることです。
逆立ちをして、歌いつづけたり、
歌いながら、大量のパスタを食べたりして、
それでも、歌唱力が一流であることが凄いのです。
しかも、それがクラシックの殿堂・サントリーホールでというのも、凄い。
でも、これは、サントリーホールだから意味があるのです。
ヨーロッパでは、クラシックの一流のホールで、
クラシック音楽のコミカルコンサートをよくやっています。
クラシックの知識があればあるほど、笑えます。
それをコメディアンがするのではなく、一流の音楽家がしているのです。
日本では、クラシックの一流の音楽家がコメディをすると、
眉をしかめる人が多い。
「一流」と「笑い」は、両立させてもらえないのです。
サービス精神のあるクラシックの一流の音楽家は
日本にもたくさんいるのに、それでは、もったいない。
音楽にかぎらず、にこりともせず、おふざけなサービスをしないほうが
一流というのは、本当の一流ではないんですね。
コンサートが終わってから、爆笑の背後霊がついて、
ジュンコさんと話がとまらず、食事から合流したコシノファミリーを
きょとんとさせてしまいました。

                        中谷彰宏拝
P.S.
ヨーロッパのコミカルコンサートのビデオがあるから、
今度、一緒に見よう。