僕は、武士ではなく、町人であることに気づいた。
(『野田版 研辰の討たれ』)
親愛なる君に

野田秀樹さんの脚本・演出の『研辰の討たれ』を観てきました。
勘九郎さん、三津五郎さん、染五郎さん、橋之助さんという豪華メンバーです。
野田さんのお芝居の中で、僕はいちばん面白かった。
学生時代から、歌舞伎座で20年以上、観てきているけど、
ある意味で、悔しかった。
歌舞伎で、こんなことができるんだというのが、悔しかった。
猿之助さんのスーパー歌舞伎とは違った意味で、面白かった。
僕は、強い武士よりも、したたかな町人に、感情移入した。
現代社会にも、武士と町人がいるとしたら、
僕はきっと、職人や商人という町人であることがわかった。
勘九郎さん演じる主人公は、僕の大好きな川島雄三監督の映画に出てくる
居残り佐平次のフランキー堺さんや、詐話師の森繁久彌さんみたいだった。
ダジャレや軽業や、「実は……」という世界観といった野田ワールドは、
歌舞伎的ワールドだった。
野田さんは、そもそも女形が大得意だしね。
野田さんは、「面白がり、面白がられること」が大事と言っていた。
この作品の面白さ以上に、歌舞伎の歴史において、
これは大きな出来事になるだろう。
この後の歌舞伎が、きっと変わる。
なによりも、登場する歌舞伎役者さんたちが、
ふだん見たことがないくらい楽しそうだったのが、印象的だった。
誰もが、「あいつ、あんなことをやってもいいの。なら、俺もやるよ」と、
仲間の芝居に笑いをこらえながら、面白がっていた。

                        中谷彰宏拝
P.S.
君の、面白がり、面白がられるところが、大好きだよ。