マウンドの上で、人生が走馬灯のように流れた。
(福岡ドーム始球式2)
親愛なる君に

グラウンドの上には、独特な時間が流れています。
『巨人の星』を見ながら、(なんでなかなか投げないのかな)とイライラしたのは、
日常とは違う時間が流れていたからです。
そうこうするうちに、投球フォームを始めてしまった。
ここでやめたら、ボークになる。
僕は、投球フォームに入りながら、考えました。
「プロの選手に、ケガをさせてはいけない」
「自分も、担架で運ばれるのも恥ずかしい」
「バッターの背中を通り抜けるのは、避けたい」
「バッターが、後ずさりをするのも、避けたい」
「キャッチ―が、届かないほどの暴投も避けたい」
「ワンバウンドして、あとでビデオに、
ポヨンポヨンという効果音をつけられるのも、避けたい」
「(素人のクセに、こいつ、やけに気合入ってるな)と思われるのも、恥ずかしい」
「いや、どうせ素人なんだから、いいかげんにやるより、
一生懸命やっているほうがいいじゃないか」と思い直したり。
「いや、いや」
「でも、だから」
「ガスの火は、消してきたかな」
「鍵は、ちゃんとかけたかな」
「ジッパーは、ちゃんとしまってるかな」
「生きるとは何か、死とは何か」
結局、ボールは、なんとか、キャッチャーのミットにおさまった。
もし、右バッターなら、バッターが逃げるところだった。
マウンドの上で、人生が走馬灯のように流れた。
グラウンドは、人を哲学者にする。

                        中谷彰宏拝
P.S.
まだ、ドラマは、終わっていなかった。
また、明日に続く。