作品の登場人物は、すべて作家の分身。
(ムヌーシュキンさん)
親愛なる君に

物語の中には、作家自身の分身を登場させる。
むしろ、すべての登場人物が、作家の分身ともいえる。
分身でなければ、深く描くことはできない。
『堤防の上の鼓手』の中には、ムヌーシュキンさんの
魅力的な分身がたくさん登場する。
洪水を予言する占い師。
夜道に明かりを照らす提灯売り。
人形遣い。
設計ミスに気づいた建築家。
それに気づいた石工。
洪水を知らせる鼓手。
そして、黒衣。
(僕は、演劇科の学生として、
ホクロは「黒子」、クロコは「黒衣」と、こだわって書きたい)
太陽劇団の制作の仕方も、徹底している。
舞台が、東洋なので、劇団のメンバー全員にリハーサル前に、
東洋の文化に浸るために旅行手当てが支給された。
かれらにとっては、数か月のリハーサルは、当たり前だ。
舞台設備にも、驚いた。
新国立劇場の通常の舞台の上に、客席が作られていたのだ。
観客は、舞台の上でお芝居を観るのだ。
太陽劇団は、舞台の設営だけで、1年かけるという。
海外公演でも、妥協を許さない。
それでは採算が取れないので、日本公演はムリだと言われていた。
今回も、舞台設営だけで、20日間も改造にかけることを許した
芸術監督の栗山民也さんの根性も凄い。
文楽と同じように、下座音楽が、舞台袖で演奏された。
たった二人で、演奏する楽器の数が160にも及ぶ。
次から次へと、楽器を取り換えるアシストをして、
演奏家ジャン=ジャック・ルメートルさんの汗もふいていた
助手の女性にも感動した。

                        中谷彰宏拝
P.S.
観ていた君の汗にも、感動した。