役者は、カットがかかるまで、芝居をやめてはいけない。
(松田秀知監督)
親愛なる君に

いい演出家と出会えることは、役者にとっては最も幸運なことです。
『変装婦警の事件簿』3の松田秀知監督も、素晴らしい監督でした。
衣装あわせの時、松田監督は言いました。
「奥さんとは、どこで出会ったんでしょうね」
夫婦の出会いについては、脚本に書かれていません。
こういうことを、聞いてくれる監督さんが僕は好きです。
僕の想像を話すと、「なるほど、そうか、それでつじつまがあうなあ」
と、アイデアを採用してくださいました。
スタッフ全員から、アイデアを集めることのできるのが、優れた演出家です。
「俺の言うとおりやれ」では、役者は脚本を読む必要はないのです。
こんなこともありました。
撮影は、短くカットを割って撮るのですが、
西岡梍nさんと片平なぎささんとの3人のシーンで、
ちっとも、「カット」という監督の声が入りませんでした。
とにかく、最後まで芝居を続けました。
「いやあ、いい芝居なんで、カットがかけられなかった」
役者にとって、こんなにうれしいことはありません。
と同時に、役者は、監督が、「カット」と言う前に、
決して芝居をやめてはいけないのです。
あとで、編集するにしても、
編集しないでも成立するくらいの退屈しない芝居をしなくてはいけないのです。
編集しなければ、退屈するような芝居に甘えていては、
いけないんですね。
素晴らしい監督に出会えるだけで、
その作品に参加できた元は、とれているのです。

                        中谷彰宏拝
P.S.
僕は、今日撮ってきたシーンのセリフを、
家に帰ってから、もう一度練習するのが好きです。
それを、ニコニコしながら、見てる君も好きです。