あれ、誰だったの?と言わせたら、役者の勝ち。
(『天保十二年のシェイクスピア』)
親愛なる君に

劇団☆新感線の『天保十二年のシェイクスピア』を観てきました。
いつものように、いのうえひでのり さんが、
入り口のところで、もぎりの人のように立っていました。
メジャーな演出家で、開演前も終演後も、出入り口にいる人は、
いのうえさんぐらいです。
いのうえさんのお芝居の面白さは、こういうところから生まれているんですね。
挨拶をすると、「長いですよ」と笑って、言ってました。
4時間近いお芝居を立ち見席で観る人もいるのです。
立ち見席の券を手に入れるために、2時間くらい前から並んでいるので、
6時間立っても観たいお芝居なのです。

いのうえさんのお芝居は、出演者全員に見せ場を作るので、
長くなって、役者も観客も、楽しめるのです。
つまらないお芝居は、主役の見せ場しかなくて、
主役以外の役者は、欲求不満が残ります。

シェイクスピアのお芝居の特徴は2つです。

(1)2時間ドラマより、大勢の人が死ぬ。
だから、役者は、死んだ後、出番がなくて、退屈します。

そこで、もうひとつの特徴が生まれました。

(2)登場人物が多い。
死んだ後、別の役で登場するのです。

意外に、役者からすると、メインのシリアスな役より、
死んだ後にやるコミカルな奇人役のほうが、楽しかったりするのです。
シリアスな役とコミカルな奇人役の2つができれば、
役者は大満足で、お芝居も厚みができて、面白くなるのです。
今回は、見事にそれが証明されました。
「あのコミカルな奇人役は、誰?」
と、観客から役者がわからなくなったら、役者の勝ちです。
パンフレットを観て、「えっ、あれって、古田新太だったの?」と
帰りの地下鉄の中で、びっくりして、もう一度、観たくなるのです。
その観客とは、僕のことです。
セックスしながら心中するシリアスな芝居も良かったけど、
コミカルな奇人役の国定忠治には、参った。
主役の上川隆也さんも、きっとあとひとつ、やりたいだろうな。
実は、小さな役で、主役が二役をしているっていうのも、
内緒でやってたりしてね。


                        中谷彰宏拝
P.S.
本番中、いのうえさんが僕のまん前に座っていたので、
僕は、うっかり寝るわけにもいかず、
ダメだしをされる役者のように、緊張して観ました。