強い人より、強気の人のほうが、怖い。
(『BIG BIZ』)
親愛なる君に

後藤ひろひとさんの舞台、『BIG BIZ』を観てきました。
後藤さんの物語は、「絵描き歌」なんですね。
最初は、落書きしてるのかなって思って笑っているうちに、
最後に絵になっていることに気づかされて驚くというオチです。
ばれないようにしながら、最後にまとめるという強引な力量があります。
最初から、つぶれそうな会社を救うぞっていう目的に向かって進むより、
窮地に追い込むようなことをして、結果として救うというノリです。
自分で、3つ続けてフォアボールを出して、ノーアウト満塁にして、
落球や悪送球した結果、ピンチを乗り切るピッチャーみたいなものです。
お坊ちゃんが、習った空手を実践したくて、夜、マスクをして暴れてたら、
正義の味方としてほめられてしまったバットマンみたいなものです。
後藤さんの登場人物の魅力は、「落差」です。
後藤さんの物語の登場人物は、〈自分らしくなさ〉の肯定です。
世の中は、〈自分らしさ〉ばやりですが、
〈自分らしくなさ〉のほうが大切じゃないの、と教えてくれます。
「シナトラがかかると、強気になる気弱な男」
「イタリア語になると、強気になる気弱な男」
「モノマネをすると、強気になる気弱な男」
「関西弁になると、強気になる気弱な男」
「ハッカーになると、強気でセクシーになる気弱な盗聴女」
ホウレンソウを食べると強くなるポパイと違うところは、
「強くなる」のではなく、「強気になる」だけだということです。
でも、強くなった人より、強気になった人のほうが、怖いのです。

                        中谷彰宏拝
P.S.
〈自分らしくなさ〉を探そう。