死ぬ役は、ラブシーンと同じくらい楽しい。
(演技力のある死体)
親愛なる君に

「ドラマで、よく死んでますね」
と、言われます。
たしかに、よく死んでます。
前にも、レターで書きましたから、[検索くん]で。
死んでない役も多いのですが、
死んでる役が、それだけ印象に強いのでしょう。
死ぬ役は、嫌いではありません。
死ぬ役には、ドラマがあるからです。
『太陽に吠えろ』だって、死んでヒーローになっていきます。
死体の難しさは、5つあります。

1.まばたきをしないこと。
アップになるので、まばたきは目立ちます。
まばたきをしないようにと意識すると、余計動きます。
NGを出すと、他の役者さんに迷惑をかけてしまいます。
まぶたを閉じていても、目玉が動くと、それもわかります。
一度、やってみてください。

2.息をしないこと。
死体のかたわらでの芝居が長いと、難しくなります。
あるドラマでは、解剖台の上に裸で横たわっていたので、
おなかをヒクヒクしないように固定するのが、大変でした。
息を止めていると、ヒクヒクしてくるのです。
「グー」と鳴る時も、あります。

3.動かないこと。
どんな女優さんに抱きつかれても、動いてはいけません。
小林稔侍さんに無精ひげで、すりすりされたこともありました。

4.風邪をひかないこと。
死体は、地面に置かれるので、特に冬場はケタはずれに寒いのです。

5.寝ないこと。
ふとんをかけられている時は、気持ちいいのですが、
気持ちよすぎて、本当に眠ってしまうこともあります。
死体のそばで、刑事が謎解きをすることが多いので、
そのシーンは長くなります。
本当に眠ってしまったことがあります。
僕の奥さん役の女優さんから、言われました。
「中谷さん、今、本当に眠ってたでしょ。
笑いをこらえるの、必死だったんだから」
でも、その笑いをこらえているのが、
涙をこらえているようにオンエアでは見えました。

セリフがなくても、なかなか大変なのです。
だから、結構、やりがいがあるのです。
死ぬ役をするときは、ちゃんとお清めのお神酒を飲みます。
縁起が悪いというよりは、逆に、死ぬ役をすると、長生きをするといわれています。
死ぬ役は、ラブシーンと同じくらい楽しいのです。
今度、ドラマで死体を見る時、死体の役の役者さんも、応援してください。

                        中谷彰宏拝
P.S.
今度、死体のメイクを落とさずに、デートしよう。