「あそこは、もう直せないかな」という粘りが物づくりだ。
(朝倉摂さん)
親愛なる君に

「情熱大陸」で、舞台美術家の朝倉摂さんのドキュメンタリーを見ました。
いちばん印象に残ったところは、
出来上がりをチェックにいった朝倉さんが、
舞台監督を何度も何度も呼んで「直し」を入れるところでした。
この日の「情熱大陸」のディレクターにも、僕は拍手を送りたい。
朝倉さんの「直しへのこだわり」に、こだわったディレクターも素晴らしい。
番組の冒頭も、
「最初から、やり直したら……」という朝倉さんのセリフで始まります。
そして、番組の最後も、こんなふうに終わります。
「そんな感じで、いいんじゃないの」
朝倉さんのそのひと言で、スタッフがほっとすると、
「……あそこは、もう直せないよね」
と、まだ直そうとする朝倉さんの粘りのひと言で終わります。
物をつくる人間としては、かくありたいと思います。
僕は、作家として、編集者から見ると、かなり大変な作家だと思います。
それは、ギリギリまで、直せるところは、直したいからです。
文章だけでなく、デザインや、ディテールまで、
最後の最後まで、粘りたいのです。
500冊以上書いているので、
スケジュール的にもう大変だということはわかっていても、
あと1ミリでもよくしたい。
そうすることで、編集者に、物づくりの楽しさを知ってほしいのです。
ゴール直前で、最初からやり直すなんて、
物づくりをしている人間にとっては、平気なことです。
そんなこだわりを、読者のほとんどは、気づきません。
でも、何人かは、気づいてメールでほめてくれたりします。
その人も、きっと何かをこだわってつくっている人なのでしょう。
「あそこは、もう直せないよね」とは、
「もうひとがんばりしよう」という意味なのです。

                        中谷彰宏拝
P.S.
気づいてくれて、ありがとう。
君に気づいてもらえたのが、うれしかった。