僕に決断させるために、機械はわざと故障する。
(レイチェル)
親愛なる君に

「原稿を書くのは、ワープロですか? パソコンですか?」
と、よく聞かれます。
現在は、パソコンです。
それまでは、長い間、ワープロでした。
1冊目の本は、手書きでした。
雑誌の原稿を、「東芝ルポのラップトップ」で書き始めました。
モニターが、当時最大の10行くらいあるタイプでした。
2冊目の『面達』から、「東芝ルポのデスクトップ」で書き始めました。
何冊目からか、「キャノワードのデスクトップ」に変えました。
業務用で、50万円くらいしました。
「業務用はいるかな?」と思ったけど、
「中谷さん、業務じゃないですか」と後輩に言われて、「そうやな」と買いました。
名前を「レイチェル」と名づけました。
その後、何度も、パソコンに切り替えようとして、断念しました。
「レイチェル」と別れられなかったのです。
機種を変える時、またマニュアルを一から覚えなければならないので、
大幅にスピードダウンします。
これだけのスピードで本を書いていると、一時的にせよ、中断することが
できなかったことが、「レイチェル」と別れられなかった原因です。
何度壊れても、修理してもらいました。
もう何年も前に廃盤になっていて、修理ができなくなっても、
買い替えようとせずに使っていました。
そしてとうとう、最期の時がきて、パソコンに切り替えました。
初代パソコンは、IBMシンクパッド。
切り替えても、「レイチェル」は、デスクの横に置いたままにしておきました。
今は、2代目パソコン「デル」です。
とうとう「レイチェル」のスペースがなくなって、
天国に行かせてあげることにしました。
最後に、記念撮影をしました。
「レイチェル」は、10年以上にわたり、450冊以上の本を書いてくれました。
主電源のところに、「保存したか?」というテープがはってあります。
電源を切る時、嫌でも目に入ります。
これは、『恋愛小説シリーズ』第5弾の『恋愛運命』を書き終えた時、
朦朧とした頭で、つい電源を切って、まるまる1冊分の原稿を消してしまった時に、
はったテープです。
当時、担当編集者だったパープル・淺野君が、
「締め切りは大丈夫です」と励ましのハーブティを持ってきてくれたイキサツは、
『恋愛運命』の「あとがき小説」に書かれています。
「レイチェル」は、
「これからもっともっと書くために、パソコンに速く切りかえなくちゃ」と言うために、
わざと故障したのだと思います。
ありがとう、レイチェル。

                        中谷彰宏拝
P.S.
この日、東京は、初雪が降りました。