隠し球を生で見ることが、野球とお芝居の楽しみ。
(『BIGGER BIZ』)
親愛なる君に

後藤ひろひとさん作『BIGGER BIZ』を観てきました。
これは、『BIG BIZ』の後説から生まれた冗談のようなパート2です。
でも、この作品で、2つのことが証明されました。

1.つまらないパート2は、パート1を超えられない。
2.すぐれたパート2は、パート1よりはるかに面白い。

今回は、パート2の傑作でした。
この作品は、制約だらけの物語です。
パート2は、そもそもパターンは、踏襲しなければならないのです。
パート1の構成は、変えない。
パート1より、BIGGERな儲け話にしなければならない。
普通、パート1が100億円の儲け話なら、1000億円にするものです。
ところが、パート2は、100億2000円の儲けというBIGGERさというところが、
やられました。
つまり、パート2の面白さは、制約を踏まえた上での裏切りなのです。
お芝居の場合、パート2に同じキャストがそろうということは、
まずありえません。
舞台人は、先の先までスケジュールが押さえられているからです。
今回も、粟根まことさんが、声だけの出演でした。
それを、観客の誰もが知っていました。
バスタオルで顔を覆ったり、うさぎのぬいぐるみを着て登場する
という演出に、観客は、笑っていました。
カーテンコールでの、出演者の紹介でも、うさぎは登場しました。
うさぎがかぶりものを取ろうとすると抜けない、
というオチなのかと思いました。
ところが、あっさり脱ぎました。
その瞬間、客席からどよめきが起こりました。
そこに現れたのは、粟根まことさん本人だったからです。
本人なのに、吹き替えの役をしていたのです。
ずっと、吹き替えの吹き替えをしていたのです。
この時のどよめきほど、役者冥利に尽きるものはないでしょう。
でも、これが生きるのも、それまでのプロットや演出や演技が
かっちりできているからなのです。
メジャーリーグで最高のプレーである
「隠し球」を生で観たような幸福感を味わいました。

                        中谷彰宏拝
P.S.
もう一度、観に行こう。
今度観に行った時、吹き替えが本物の吹き替えだったとしても、
それはそれで、面白いよね。