死んでいる人は、天井と床を見ている。
親愛なる君に

僕は、入水自殺はできないということが、わかりました。
水の中に入ると、条件反射で、2つのことをしてしまうのです。

1.目を開ける。
2.泳ぐ。

死体の役ですから、この2つをしてはいけないのです。
静かなプールでなら、死体のようにじっとして浮くのは簡単です。
しかも、リハーサルなしのぶっつけ本番ですから、
どんな状況かまったくわからないで、
目を開けないというのは、かなり怖いことです。
カメラアングルがあるので、
ミキサーのような流れのある滝の中で、泳がずに、流れてもいけない。
泳げる人で、入水自殺をする人は、かなり意志の強い人ですね。
そんな意志があるなら、死ななくても、生きていけます。
岸に上げられて、死体の役で寝そべって、空を見上げました。
滝を、下から、見上げました。
こんなアングルで、滝を見るのは、死体くらいなものですね。
僕は、ドラマで死ぬ役が多いので、
死体の目線で、よくものを見ます。
ふつう生きている人間は、立って水平に横に世界を見るんですね。
でも、死体は寝転がっているので、垂直に上下で世界を見るのです。
生きている人が壁を見ているとしたら、
死んでいる人は、天井と床を見ているのです。

                        中谷彰宏拝
P.S.
臨死体験の本が、書けるね。