一流の役者は、観客に楽しい時間をもらって感謝する。
(稲川淳二さん)
親愛なる君に

稲川淳二さんの『怪談ナイト』に行ってきました。
「『冷夏でサッパリです』というコメントをください」という雑誌の
取材に、全然サッパリじゃないのに、
「さっぱりです」と笑って答える稲川さんは、さすがです。

公演の最後に、稲川さんはこう言われました。

〈怪談は、私が話すのではなくて、
皆さんが、私から引き出すのです。
楽しい時間をすごさせていただけました。
楽しい時間を、ありがとうございました〉

普通は、「楽しい時間をすごしていただけましたか?」と聞くところが、
逆であるところに、稲川さんの凄さがあります。

稲川さんの怪談が終わると、トイレが込みます。
緊張から解放されて、トイレに行きたくなるのです。
トイレがどんなに込み合っていても、
礼儀正しいお客さんが多いのも、稲川さんのお人柄ですね。

稲川さんの怪談は、オチのない怖さです。
ところで、あれはどうなったんだろうと、宙ぶらりんのまま、
今晩、思い出さなければならないのです。
いちばん最初にさらっと話された「死ぬとは、思わなかったんだよ」
という、ひと言のセリフが、
忘れていたのに、よみがえって、頭から離れません。

                        中谷彰宏拝
P.S.
目をつぶっている君もかわいいけど、
目をつぶってるほうが、もっと怖いよ。