映画館のピントは、予告編の文字で合わせる。
(映写機)
親愛なる君に

僕は、映画館では、いちばん後ろの席が好きです。
気を使わないで、トイレに行ったり、飲み物を買いに行ける
通路際が好きです。
いちばん後ろの席に座るのは、職業病です。
コマーシャルのチェックをするためには、
最も画質のいいところから観ないと、
まずいところが発見できないのです。
前で観すぎると、粒子が粗くて、ボケているのかどうかも、
わからないのです。
やる気のない映画館で、
ピントがボケたまま本編が始まってしまうのは、残念です。
こういうことは、かなり神経質になります。
新人の頃、映写機係をしていて、
映写機のピントをきちんと合わせないと、死ぬほど怒られました。
それは、そうです。
最高の画面を作るためにプロが集まって、真剣勝負で作ったフィルムを、
映写機係が、台無しにしてしまうことになるからです。
映写機は、ときどきチェックしておかないと、
ピントは、ずれていきます。
予告編があるのは、その間にピントを直すためです。
わざとピントをぼかしている演出もあるので、
そういう時は、タイトルバックの文字で合わせます。
設備だけではなくて、そういう職人魂が、映画を面白くするのです。
そんな思いで、僕はいちばん後ろに座って観るのです。

                        中谷彰宏拝
P.S.
ピントのボケた映画を、君に見せたくないから、
ボケている時は、映写室に連絡に行きます。