謎の変装ボウラー、現わる。
(ジャパンカップ2004その3 西城正明プロ)
親愛なる君に

ボウリングの大きな大会の前日には、
たいてい、プロとアマチュアが一緒に投げることのできる
前夜祭が、催されます。
これは、どんな初心者も参加できます。
ジャパンカップでも、前夜祭が催されました。
僕のボックスに、ちょっと危ないおじさんが入っていました。
Tシャツに、野球帽、『スピリッツ』が入った紙袋を持っていました。
うつむいて、1人でぶつぶつ言っていました。
イッセー尾形さん演じるホームレスのおじさんみたいでした。
大会役員や中山律子さんが、おじさんに話しかけるので、
路上生活者の方で、ボウリングのトップの人かなと思いました。
同じボックスの女の子は、来てはいけない人が来てしまって、
やめさせようとしているのだと思っていたそうです。
ボックスに回ってきた韓国KPBAのトップのジョン・テハ選手は、
おじさんの顔をのぞきこみました。
次に、ボックスに入ったピート・ウエバー選手が、
じっとおじさんを見つめていて、とうとうスコアテーブルを叩きました。
そして、おじさんを指差して、言いました。
「ヘイ、ユー……サイジョウ!」
おじさんは、特殊メイクで変装した
最多生涯獲得賞金ボウラー西城正明プロだったのです。
西城プロは、もう2年以上前に、僕の事務所にいらして、
3時間以上も熱くボウリングへの情熱を語ってくださいました。
投げ方は、ばれないように、わざと下手に投げていました。
でも、靴の裏がちらりと見えた時、
ベテランプロがアーマー用に張っているテフロンテープが見えました。
気づいて黙っていたジョン・テハは、大人でした。
こういう時は、気づかないふりをするのが、遊び心です。
「見抜いた、見抜いた」と言いふらしたり、
「写真、写真」と騒いではいけないのです。
ピート選手もまた大人でした。
スプリットを2人で、同時に取るトリックプレーまでサービスしてくれました。
大会の演出では、なかなかアメリカに追いつかない日本の
トーナメントで、このサプライズは、負けていませんでした。
口にも綿を詰めて息はできないし、
下手に投げるので、腰も疲れたと笑っていた西城プロは、
最高のエンターテイナーでした。

                        彰宏より。
P.S.
西城プロは、そのメイクのまま、帰られたそうです。
それも、凄い。