涙をこらえている時が、いちばん悲しい。
(藤森夕子さん)
親愛なる君に

「悲しいお芝居をする時、舞台で涙を流すことはありますか?」
と、聞かれます。
演技で、涙を流そうとすることは、ありません。
涙を流してしまうと、見ている人が、
逆に、覚めてしまうことがあるからです。
涙を流そうとしていないけど、結果として、出てしまうことはあります。
朗読劇『天使がくれたラブレター』を、
藤森夕子さんと名古屋で公演した時のことです。
リハーサルを、ほとんどしている時間がなく、ぶっつけ本番でした。
それまで、何度もしている公演で、
一度も涙を流したことはありませんでした。
ところが、エンディングに差しかかった時、
涙が出そうになってきたのです。
広い会場からも、クスクスはなをすする音が聞こえはじめました。
(たまには涙をこぼしてみようかな……)
お芝居の始めから、一度も目線をあわさないで、
最後の瞬間に、初めて顔を合わせるという演出をしていました。
10年にわたるすれ違いが、
初めて出会うという意味です。
(最後に、顔を合わせた時、僕が涙を流していたら、
夕子ちゃんが、きっとビックリするだろうな……)
いよいよ、エンディング。
同じタイミングで、ゆっくり顔を見合わせていく。
(やられた……)
なんと、夕子ちゃんが、涙をボロボロ流していたのでした。
僕が、涙が出そうになってきたのは、
夕子ちゃんとお客さんが、涙をためたからだったのでした。

                        彰宏より。
P.S.
原作を書いている時は、もちろん、涙が出ました。
音楽を選んだ時も、出ました。