迷子の間、神様と一緒にいられる。
(身延山久遠寺)
親愛なる君に

母親の納骨に、身延山久遠寺に行ってきました。
父親と妹夫婦と現地集合。
荷物のキライな父親のあまりの荷物のなさに、妹が恐る恐る質問。
「パパ、のど仏は?」
「えっ?」
年がら年中忘れ物の多い父親なので、(また、やった)とあせりました。
ギリギリ、小さなかばんの中に入っていました。

ここには、黒の法事スタイルでいる人はほとんどいなくて、
白装束の修験スタイルで、
「南無妙法蓮華経」と唱えながら行く人ばかりでした。
本堂に上る287段という階段は、上から見ると、
下が見えないくらい急な階段でした。

上ってくる人の頭も見えないくらい急なのです。

読経の間の正座が足がしびれて大変なので、
通販で買った正座用椅子を持って行って、
妹に見せびらかせてうらやましがらせていました。
すると、読経の場所には、椅子が用意されていて、出番なし。

ほっと油断するのもつかの間、
修行は、帰り道に、用意されていました。
乗り換えにつぐ乗り換えで、
秘書室で用意してくれた時間表よりも2本早めに着いたのが、失敗のもと。
1本早めに乗った電車は、早めに乗ったはずなのに、
予定時刻になっても、目的の駅にたどり着きません。
知っている土地なら、1つ違う駅に向かっただけで、
間違えたことに気づきます。
知らない土地では、気づいた時には、
かなり遠いところまで来てしまっていました。
知っている地名が、ひとつもありません。
人のよさそうな車掌さんが、申し訳なさそうに、
「戻りの本数が少ないので……」と、気の毒がってくださいました。
他に方法がなく、しかたなしに降りた駅は、真っ暗な無人駅。
駅員さんもいなくて、切符は、電車に乗ってから買うのです。
まるで、ミステリーゾーンか「世にも奇妙な物語」の世界に
紛れ込んだみたいでした。

神様と母親の元に、長く一緒にいられた幸福な迷子でした。

                        彰宏より。
P.S.
断崖絶壁のような階段の写真を撮りたかったけど、
怖くて撮れなかったので、想像してください。(それほど、急だった)