本当に感謝しなければならない人の名前は、載っていない。
(「……さんに捧ぐ」)
親愛なる君に

海外の本で「……さんに、捧ぐ」という名前が、ずらずら並んでいる本を
よく見かけます。
挨拶の多い披露宴みたいですね。
いかに、外国の人も、しがらみの世界で生きているかが、よくわかります。
スペシャルサンクスの名前を入れておかなければ、
「なんだ、あいつ……」と言われてしまうからです。
いつのまにか、名前を入れるか入れないかが、
問題になってしまっているのです。
感謝しなければならない人を、すべて書き出すことはできません。
書けば書くほど、漏れる人が出てきます。
僕は、「……さんに感謝します」という文章が、延々と続いている本は、
読み流します。
その著者は、しがらみを気にして、書きたいことを書けないタイプだからです。
本を読む人が読みたいのは、祝電披露ではないからです。
実は、本当に感謝しなければならない人の名前は、
「……に捧ぐ」の中にはありません。
なぜなら、本当に感謝しなければならない人は、
「名前なんか載せなくていいよ」と言う人だからです。
ほかの人の名前が、並んでいて自分の名前がなくても、
「なんで、あの人が出て、私が出ないの?」とは思いません。
名前が出ないからこそ、「これは、私のために書かれた本」とわかるのです。
だから、僕は、あえて「……さんに感謝します」と書かないのです。

                        彰宏より。
P.S.
いつも、そんなことに気づいている君に、感謝。