出会う前の写真に、恋人が写ってるかもしれない。
(わたせせいぞう さんの『ハートカクテル』11)
親愛なる君に

わたせせいぞう さんの『ハートカクテル』11(HEART COCKTAIL eleven)を、
いただいて、早速、読みました。
僕の本棚にある『ハートカクテル』の第1巻は、昭和59年発行です。
僕が、早稲田を卒業して、博報堂のCMプランナーになった年です。
『ハートカクテル』は、僕の創作のお手本となった作品です。
当時はもちろん、まだ、わたせさんとは、面識もなかった頃です。
特に、この「11」は、感動しました。
「11」は、ただの第11巻ではありませんでした。
主人公の2人が、ずっと、すれ違ったまま物語が、展開していくのです。
それが、見事に、本の装丁の演出になっています。
わたせさんの作品は、いつも、読者が本をどう開くかということを
計算して描かれています。
そして、僕は、わたせさんの計算通りに本を開いていってしまいます。
その、はめられる快感。
僕がいちばん好きなのは、雪の公園を、最初彼1人が歩いていく。
そして、カフェで、ホットエッグノックを飲んでいる。
そして、同じ公園を、彼女が歩いていく。
彼の足跡は、まだ残っています。
そして、同じカフェのさっきまで彼が座った同じ席で、
彼女は、カフェロワイヤルを飲んでいる。
もちろん、彼は、そこにはいません。
これは、西部劇で、主人公がかたきの男を追いかけていく映像手法です。
それが、見事に、恋愛ドラマになっています。
わたせさんのロマンチックで、写実的な絵が、
反復とズレのドラマを、盛り上げます。
僕たちも、未来の恋人と、まだ気づいていないけど、
こういうすれ違いをずっとしているような気になります。

                        彰宏より。
P.S.
君と会う前の写真を探すと、君が写ってるかもしれないね。