超一流の聞き手は、「いかがでしたか?」と聞かない。
(NHK・葛西聖司アナウンサー)
親愛なる君に

NHKの葛西聖司アナウンサーの語り口が、心地いい。
声のトーンも優しいけど、
同時に、舞台の空気感の作り方が、素晴らしいのです。

よく、硬い話し方を「NHKのアナウンサーみたいな話し方」と言うけど、
葛西アナの話し方は、実に、心地いい。
インタビューで話す時は特に、アナウンサーの話し方で、
ゲストのノリが変わってきます。

たとえば、辻村ジュサブローさんがゲストの時、
葛西アナの聞き方は、絶妙でした。
まず、普通、こんな風に聞くことが多い。

「さて、その後、辻村さんは、広島から東京に上京されて、
一人暮らしを始めるわけですが、
その時のお気持ちは、いかがでしたか?」

これでは、話しにくいのです。
下手な聞き手になると、ゲストが話そうとし始めているのに、
間が怖くて、
「さぞかし、心細かったことでしょうね。どうですか?」と、
台なしにしてしまいます。
葛西アナは、こう聞きました。

「さて、舞台は、広島から、東京へ。初めての、一人暮らし……」

まるで、お芝居を見るような映像感覚です。
「いかがでしたか?」と邪魔しないで、「……」という間で、
ゲストにつなぐところが、職人技です。
ジュザブローさんが、気持ちよく、昔を振り返るのが、わかりました。

                        彰宏より。
P.S.
この語り方の根っこには、
葛西アナの歌舞伎・文楽・映画・落語を愛して来られたバックボーンがあります。
著書『ことばの切っ先――心にせまるセリフ』も、名著です。