本の中身より、読んでいた女の子の横顔を忘れない。
(「私の名作ブックレビュー『知と愛』」)
親愛なる君に

週刊新潮「私の名作ブックレビュー」のコーナーで、
「新潮文庫から1冊選んでください」という依頼がありました。
ヘルマン・ヘッセの『知と愛』(高橋健二訳)を選びました。

「どんな話」と聞かれると、困ります。
本を読まないで、この本を読んでいる女の子の
顔しか、覚えていないからです。
当時 片思いだったその子が、
この本を通学の電車の中で読んでいました。
話しかけることができないので、せめて本で、
同じ世界に入ろうとして買って読んだのです。

その思いを、短歌にして「朝日歌壇」に送ったら、入選しました。
<君が読む ヘッセを買い来て われもただ 同じ頁を 共に読むなり>
僕の作家としての原点のような本なのです。

                        彰宏より。
P.S.
まさかと思いながら本棚を探したら、
やっぱり、35年間、僕の本棚にたたずんでいました。

P.S.2
週刊新潮(2011年5月26日号)に載っています。