『大人のスピード思考法』(ダイヤモンド社)
評:井狩春男
(「週刊小説」2000年12月8日号)
月に6冊以上の新刊を出すのが中谷彰宏さんだ。
既刊は、400冊に迫ろうしている。
以前、お会いした時に話されていたのは、
90歳までに3000冊書くということだった。
中谷さんだったら可能だ、とその時思ったものだ。
いずれギネスブックに載ることになるかもしれない。

こんなに書けるということは、出してくれる出版社があるということだ。
それはもちろん、売れるからだ。

中谷さんの場合、常連の出版社がいくつか決っている。
ドル箱だから、版元が中谷さんをつかまえて離さないのだ。
雑誌感覚の発行ペースで出している。

出版社としては、実業之日本社、ダイヤモンド社、PHP研究所、
三笠書房、オータパブリケションズ、ネスコ、角川書店、小学館あたりが、
中谷さんにとっての主な取引先。

著者として、出版をビジネスと割り切っているように見受けられる。
そのあたりが、すがすがしくて気持ちイイ。

中谷さんが、他のほとんどの著者たちと、まるっきり違うところは、
売れる本の書き方、作り方を知っていること。
取次、書店などをまきこんで、
実際に自分の本を「売っている」ことである。
これは、編集者に見習ってもらいたいところでもある。
編集者によっては、売れる本の作り方のイロハも知らない。
著者ともなれば、ほとんどがダメで、
ただただ、自分が書いたものは優れている、とか、
こんなことは自分しか書けないだろうとばかりに偉そうにしているだけで、
売れるように書けないで、人に売ってもらうことしか考えない。

全国に中谷さんの本を売るネットワークができている、
といっても過言ではないだろう。
書店によっては、売る場所まで決まっている。
そんな著者は、日本に3人いるだろうか。

もちろん、出版されれば必ず広告が出る。
情報があって、売る場所があり、ファンが待っていてくれる。
売れる安定ラインが完備されているのだ。

「スピードの新記録が出ると、それが普通になる。」

帯のこのコピーが読者を引きつける。

「頭の回転を速くする53の具体例」

という表紙のサブタイトルにまで目が行ったら、
もう中谷さんの勝利(?)である。
読者は、こういうのが53もあるのなら買ってみようと思う。
念のため、本を手に取り、パラパラとページをめくってみる。

「頭の回転の速い人と、ランチを食べよう」

「今聞いた情報は、すぐ使おう」

「ペンを手に持ったまま作業しよう」

「情報をもったいぶるのは、やめよう」

「アイデアにつまったら、移動しよう」

「一瞬のうちに数えるクセをつけよう」

……と、次々と目からウロコのコピー(見出し)が目に入ってくる。
結論が見出しになっていて、本文はカンタンなコメント。
これでOK。
すぐに欲しくなる。

だらだらと長文で、キーワードを探すのに苦労する本は、
現代に合わない。

今、最も重要なキーワードは「短い」。
すぐに、わかるということだ。
中谷さんの本全部が、それを満たしている。
これから3か月後の予想――10万部。


(「井狩春男のベストセラー最前線」から)