『3分でダンスが踊れた。』(PHPエル新書)
評:浜田純一
(「月刊ダンスビュウ」2002年12月号)

『3分でダンスが踊れた。』(中谷彰宏著・PHPエル新書)という、
ダンスに興味のある人なら、誰でも思わず手にとって見たくなるような、
刺激的且つ挑戦的なタイトルの本を私のダンスクラスの受講生に戴いた。

「まえがき」をご紹介しよう。

〈ステップを覚えなくてもダンスは楽しめます。
この本を読めば、ダンスのステップが覚えられるということではありません。
これがほかのダンスのテキストと違うところです。
私はダンスの先生ではなく生徒です。
普通、ダンスのテキストは先生が書きます。
ところがこの本は、生徒から見て、ダンスを覚えるのはこんなに楽しいという見方です。
先生が言う楽しさと、生徒が見る楽しさとは、視点が違います。
ダンスをやりたくてもなかなか始められないでいるあなたは、
この本を読めば1歩踏み出す勇気がわいてきます。〉

なるほど、この本には、テキストに付き物の「足型図」はひとつも無い。
正しいホールドも、正しい歩き方も書かれていない。

「日本のダンスは、あまりにステップ主義ではないか」と、
外国のコーチャーにしばしば指摘される。 
この本は、その疑問に真っ向から答えている。

〈まずダンスを習うときに、誰でもステップから覚えようとします。
ダンスというのはステップを踏むことではありません。
二人で呼吸を合わせて揺れているだけで、究極のダンスです。
ダンスの基本は、一緒に呼吸して、一緒に揺れるだけでいいのです。〉

地球上に生命が誕生したのは、36億年ほどの前の海の中であるという。
生命は、海の中で揺れながら生まれたのである。
今、わたしたちは母胎の中で、羊水に漬かり揺れて胎児期を過ごす。
生まれ出ると母親に抱かれて揺られる。
成長の過程で、いかに揺られる機会の多いことか。
36億年にもわたる生命の記憶は、今もわたしたちを
「SWING〜心地よい揺れ」へと誘いつづけるのであろう。

さて、わが国におけるダンスの潜在需要は1500万人にものぼるという。
しかし、一向に顕在化する兆しが見えないのは、
受け皿である教える側に問題がありはしないだろうか。
『3分でダンスが踊れた。』は、私のようなダンス教師の常識を超えた本である。

センテンスの短い文章は読みやすく、
程良くちりばめられた写真=講師である美男美女の誉れ高い花岡浩司・律子夫妻と
中谷氏のすてきなショットも、
潜在者たちが抱くダンスに対するイメージと合致するのではないだろうか。

「ダンスの基本は、一緒に呼吸して、一緒に揺れるだけでいいのです」
と断言する中谷彰宏氏のすすめによって、
「ダンスを習い始めようと思いながらも、なかなかキッカケがつかめない人」たちが
ダンスへの扉を開けてくれることを、私は期待したい。